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東京地方裁判所 昭和34年(レ)619号 判決 1961年10月03日

控訴人(第一審被告) 三好力 外二名

被控訴人(第一審原告) 田中隆恵

主文

一、原判決のうち、控訴人三好に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人三好は被控訴人に対し、別紙第二目録

(一)の建物から退去して別紙第一目録(一)の土地を明渡し、かつ、昭和三二年四月一日から右明渡しまで一カ月金二八三円の割合による金員を支払うべし。

被控訴人の控訴人三好に対するその余の請求を棄却する。

二、控訴人岩城、控訴人工藤の各本件控訴を棄却する。

三、訴訟費用のうち、被控訴人と控訴人三好との間に生じた分は第一、二審とも控訴人三好の負担とし、被控訴人と控訴人岩城、控訴人工藤との間に当審において生じた分は、右控訴人両名の負担とする。

事実

控訴人三好、同工藤両名代理人および控訴人岩城は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人代理人は、請求の原因として、かつ、被告の主張に答えて次のとおり述べた。

(請求の原因)

(一)  別紙第一目録(一)(二)の土地は被控訴人の所有である。

(二)  しかるに、控訴人三好は別紙第一目録(一)の土地のうえに、昭和二七年三月一一日以降別紙第二目録(一)の建物を所有してこれに居住し、右土地を不法に占有している。控訴人岩城は別紙第一目録(二)の土地のうえに、昭和三一年一一月二日以降別紙第二目録(二)の建物を所有して、右土地を不法に占有している。控訴人工藤は別紙第二目録(一)の建物のうち別紙第二図面(一)の部分(以下三帖の室という)を占有し、別紙第一目録(一)の土地のうち右三帖の室の敷地部分を占有している。

(三)  被控訴人は、別紙第一目録(一)の土地に対する控訴人三好の右の不法占有によつて一カ月金二八三円の相当地代額(統制額)の損害を蒙り、別紙第一目録(二)の土地に対する控訴人岩城の右の不法占有によつて、一カ月金一七二円の相当地代額(統制額)の損害を蒙つている。

(四)  よつて、被控訴人は、控訴人三好に対し別紙第二目録(二)の建物を収去して別紙第一目録(一)の土地の明渡しと、不法占有のはじまつた後である昭和三二年四月一日から右明渡しまで一カ月金二八三円の割合による損害金との支払いを、控訴人岩城に対し別紙第二目録(二)の建物を収去して別紙第一目録(二)の土地の明渡しと、不法占有のはじまつた後である昭和三二年四月一日から右明渡しまで一カ月金一七二円の割合による損害金との支払を、控訴人工藤に対し別紙第二目録(一)の建物のうち三帖の室から退去して別紙第一目録(一)の土地のうち右室の敷地部分の明渡しを求める。

(抗弁に対する答弁)

(一)のうち、被控訴人が賃借権の譲渡を承諾したこと、被控訴人が昭和二七年三月一一日から五年間控訴人三好が別紙第一目録(一)(二)の土地を占有することについて異議を述べず、賃借権の譲渡を暗黙に承諾したことは否認するが、その余の事実は認める。したがつて、控訴人三好は右賃借権を被控訴人に対し対抗することができない。

(二)の買取請求権の主張は時機に後れるものであるから、却下すべきである。

(三)のうち、控訴人岩城の土地の占有が正当であることは争うが、その余の事実は認める。控訴人三好が被控訴人に対し賃借権を対抗することができない以上、控訴人岩城の右土地の占有は不法である。

(仮定的再抗弁)

仮りに、控訴人三好が被控訴人に対し右賃借権を対抗することができるとしても、控訴人三好は昭和三一年一一月二日頃控訴人岩城に対し別紙第一目録(二)の土地を被控訴人に無断で転貸したから、被控訴人は原審第五回口頭弁論期日(昭和三三年一〇月一三日午後一時)に控訴人三好に対し、右賃貸借契約解除の意思表示をした。

したがつて、右賃借権は同日限り消滅し、以後控訴人三好の別紙第一目録(一)の土地の占有は不法占有である。

以上のとおり述べた。

控訴人三好、同工藤両名代理人および控訴人岩城は、答弁として次のとおり述べた。

(請求の原因に対する答弁)

(一)は認める。

(二)のうち控訴人らの各土地の占有が不法である点は争うが、その余の点は認める。

(三)のうち、控訴人らの不法占有により、被控訴人が損害を蒙つた点は否認するが、その余の点は認める。

(抗弁)

(一)  控訴人三好は、昭和一七年三月一一日、別紙第二目録(一)の建物の所有者であり別紙第一目録(一)(二)の土地の賃借人である杉本重蔵から右建物の所有権を譲受けると同時に、被控訴人の承諾を得て、被控訴人に対する右賃借権を譲受けこれを承継取得した。

仮りに、右の承諾が認められないとしても、被控訴人はその後五年間、控訴人三好が右土地を占有することについて杉本に対しても控訴人三好に対しても全く異議を述べなかつたのであるから右賃借権の譲渡を暗黙に承諾したというべきである。

したがつて、控訴人三好は右賃借権にもとづき別紙第一目録(一)の土地に右建物を所有し、正当に右土地を占有している。

(二)  仮りに、右の承諾がすべて認められないときは、控訴人三好は、本訴で(昭和三六年四月二五日午後一時の当審第一二回口頭弁論期日に)、被控訴人に対し、別紙第二目録(一)の建物を時価相当額で買取ることを請求する。したがつて、右建物の所有権は被控訴人に移転したから、控訴人三好にその収去義務はない。

(三)  控訴人岩城は昭和三一年一一月二日頃控訴人三好から別紙第一目録(二)の土地を転借し、これにもとづき同地上に別紙第二目録(二)の建物を建築して所有し、正当に右土地を占有している。

(仮定的再抗弁に対する答弁)

控訴人三好が被控訴人主張の頃控訴人岩城に対し、別紙第一目録(二)の土地を転貸したことは認める。

以上のとおり述べた。

証拠として、被控訴人代理人は、甲第一ないし第五号証を提出し、原審証人杉本重蔵の証言、原審における被控訴人および控訴人三好の各本人尋問の結果を援用し、控訴人三好、同工藤両名代理人は、原審証人三好鶴子、当審証人杉本重蔵の各証言、原審における控訴人三好本人尋問の結果を援用し、「甲第一、二号証が真正にできたかどうかは知らないが、その余の甲各号証が真正にできたことは認める。」と述べ、控訴人岩城は、「甲第一号証が真正にできたかどうかは知らないが、その余の甲各号証が真正にできたことは認める。」と述べた。

当裁判所は、職権で、被控訴人本人尋問を行なつた。

理由

一、次の事実は当事者間に争いない。

別紙第一目録(一)(二)の土地は被控訴人の所有である。しかるに控訴人三好は別紙第一目録(一)の土地のうえに昭和二七年三月一一日以降別紙第二目録(一)の建物を所有して、右土地を占有し、控訴人岩城は別紙第一目録(二)の土地のうえに、昭和三一年一一月二日以降別紙第二目録(二)の建物を所有して、右土地を占有し、控訴人工藤は別紙第二目録(一)の建物のうち三帖の室を占有して、別紙第一目録(一)の土地のうち右室の敷地部分を占有している。

二、先ず、控訴人三好に対する請求について考える。

(一)、控訴人三好が昭和二七年三月一一日別紙第二目録(一)の建物の所有者であり、別紙第一目録(一)(二)の土地の賃借人である杉本重蔵から右建物の所有権を譲受けるとともに、被控訴人に対する右賃借権を譲受けたことは、当事者間に争いがない。

控訴人三好は、右譲渡にあたり被控訴人がこれを承諾したと主張する。

しかし、右の事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原審および当審証人杉本重蔵の証言、原審および当審における控訴人三好本人の供述によると、杉本および控訴人三好は右賃借権の譲渡に際し、被控訴人から譲渡の承諾を得る必要があることを知らなかつたほどで、被控訴人から右譲渡の承諾を得なかつたことが認められる。

控訴人三好は、被控訴人がその後五年間も異議を述べなかつたので、右賃借権の譲渡を暗黙に承諾した、と主張する。

甲第一号証(原審および当審証人杉本重蔵の各証言により真正にできたと認められる。)甲第二号証(被控訴人と控訴人三好との間では真正にできたことに争いない。)と原審証人杉本重蔵の証言、原審における被控訴人本人の供述とによると、被控訴人は昭和二七年頃、別紙第二目録(一)の建物の前記譲渡を知つたが、昭和三一年九月六日杉本に対しこのことで異議を述べるまで、他に異議を述べなかつたことが認められる。

しかし、右の各証拠に当審における被控訴人本人の供述を合わせ考えると、被控訴人は、控訴人三好に別紙第一目録(一)(二)の土地を賃貸する意思は毛頭なかつたので、右控訴人に対し賃料の請求をするなど賃貸人としての態度を暗黙のうちにでも示したこともなく、むしろ杉本または控訴人三好のでかたを待つていたため、異議を述べるまで数年を経過したことが認められる。

原審および当審証人杉本重蔵の証言のうち、右認定に反する部分は信用することができないし、他に右認定をくつがえすに足りる証拠もない。

右の認定事実に照らすと、被控訴人は前記譲渡を暗黙にも承諾したとは認められない。

したがつて、控訴人三好が別紙第一目録(一)の土地を占有するについて、被控訴人に対抗することができる賃借権を有していたという抗弁は理由がない。

(二)  控訴人三好代理人は、「控訴人三好が当審第一二回口頭弁論期日(昭和三六年四月二五日午後一時)に被控訴人に対し別紙第二目録(一)の建物を時価相当額で買取ることを請求したから、右建物の所有権は被控訴人に移転し、控訴人三好にその収去義務はない。」と主張し、被控訴人代理人は、右主張は時機におくれたものであるから却下すべきである、と主張する。

控訴人三好代理人は、原判決で前記賃借権譲渡の承諾が認められず、右承諾の事実を支持するに足りる有力な証拠もなかつたのであり、この結果は当然に予想されるのであるから、当審における第一回口頭弁論期日か、おそくとも、証拠調期日前に右主張を提出することができたはずであつた。

しかるに、控訴人三好代理人は、当審における証拠調の終了した最終の第一二回口頭弁論期日(昭和三六年四月二五日午後一時)に至つて、はじめて被控訴人に対し前記建物を買取るべき旨の意思表示をし、右主張をしたのであるから右主張は控訴人三好代理人の重大な過失により時機におくれて提出したものというべきである。

このような場合、右買取請求権の行使を前提に、同時履行の抗弁または留置権の抗弁を提出するときは、さらに建物の時価について証拠調を必要とし、このため訴訟の完結を遅延させることは明らかであるから、その抗弁は却下を免れない。

しかし、本件では前記のとおり建物買取請求権を行使し建物の収去義務がないことを主張したにとどまるから、これによつて、さらに証拠調をする必要はなく、本件訴訟の完結を遅延させることにはならない。したがつて、この主張は却下すべきではない。

別紙第二目録(一)の建物は杉本が賃借権にもとづいて別紙第一目録(一)の土地上に所有していたのであり、控訴人三好は昭和二七年三月一一日杉本から建物の所有権と右土地の賃借権とを譲受けたが、被控訴人から右譲渡の承諾を得られなかつたことは、前記のとおりである。

したがつて、控訴人三好は右建物の買取請求権を有し、右請求権の前記行使によつて、控訴人三好と被控訴人との間に売買契約が成立したと同一の効果が生じ、別紙第二目録(一)の建物は被控訴人の所有に移転した。

(三)、してみると、控訴人三好は被控訴人に対し、右建物を収去する義務はないが、控訴人三好が右建物に居住し、別紙第一目録(一)の土地を占有していることは、控訴人三好と被控訴人との間に争いがないのであるから、右建物から退去して右土地を明渡す義務がある。

(四)、控訴人三好の右土地の占有は、占有をはじめた昭和二七年三月一一日から右建物の買取請求をした日の前日である昭和三六年四月二四日までの間、被控訴人に対抗することができる権原のない不法占有であり、前記(一)の認定事実に照らし、控訴人三好にはこの点について少くとも過失がある。

右不法占有によつて、被控訴人は相当地代額の損害を蒙つているというべきである。

控訴人三好の右占有は、建物買取請求をした昭和三六年四月二五日から右土地の明渡しまで、留置権または同時履行の抗弁権によつて支えられているから(訴訟上防禦方法として右抗弁権を主張しなかつたことは影響がない)、不法占有ではない。

しかし、このように建物買取請求権があつた場合、被控訴人の相当地代額支払いの請求には、反対の意思表示のない本件では、予備的に不当利得にもとづく請求も含まれていると解すべきである。

控訴人三好が右の留置権または同時履行の抗弁権を有することは、右土地の占有に伴う利得を取得する権原とはならないから、控訴人三好は法律上の原因なくして相当地代額を利得し、これによつて被控訴人は右同額の損失を蒙つていることになる。

控訴人三好が右土地の占有を始めた後である昭和三二年四月一日以降の右土地の統制賃料額は、一カ月金二八三円であることは、控訴人三好と被控訴人との間に争いがない。

(五)、してみると、控訴人三好は被控訴人に対し、右の昭和三二年四月一日から建物の買取請求をした日の前日である昭和三六年四月二四日までは不法行為にもとづき、昭和三六年四月二五日から右土地の明渡しまでは不当利得にもとづき、一カ月金二八三円の割合による損害金および不当利得金を支払う義務がある。

三、その他の控訴人らに対する請求について考える。

(一)、控訴人岩城は、同控訴人が昭和三一年一一月二日頃控訴人三好から別紙第一目録(二)の土地を転借し、同地上に別紙第二目録(二)の建物を所有している、と主張する。

しかし、控訴人岩城は、右土地の転借について賃貸人である被控訴人の承諾があつた旨の主張立証をしないのであるから、控訴人岩城の抗弁は、すでにこの点で理由がない。

(二)、したがつて、控訴人岩城は被控訴人に対抗することのできる権原なくして右土地を不法占有しているのであり、この点について控訴人岩城には少くとも過失があるものといわなければならない。そして右不法占有によつて、被控訴人は相当地代額の損害を蒙つているわけである。

控訴人岩城が右土地の占有を始めた後である昭和三二年四月一日以降右土地の相当地代額が一カ月金一七二円であることは、控訴人岩城と被控訴人との間で争いがない。

(三)、してみると、控訴人岩城は被控訴人に対し、右建物を収去して右土地を明渡し、かつ、昭和三二年四月一日から右土地の明渡しまで一カ月金一七二円の割合による損害金を支払う義務がある。

(四)、控訴人工藤は、同控訴人が前記三帖の室を占有し、その敷地部分を占有する権原について、なんら主張立証をしない。

したがつて控訴人工藤は被控訴人に対し、右三帖の室から退去して別紙第一目録(一)の土地のうち右室の敷地部分を明渡す義務がある。

四、以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人三好に対する請求は、前記一の(三)、(五)に判示した限度で認容し、その余の請求を棄却すべきである。これと一部異なる原判決は、この限度で変更する。被控訴人の控訴人岩城、控訴人工藤に対する請求は、右三の(三)、(四)に判示したとおりすべてこれを認容すべきである。これと同旨の原判決は相当であるから、右控訴人らの各控訴はこれを棄却する。

訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九五条、第八九条、第九二条但書、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 新村義広 猪瀬慎一郎)

第一目録

(一) 東京都大田区調布鵜ノ木町三〇二番地の一三宅地六二坪二勺のうち別紙第一図面(ト)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)の各点を直線で結んだ範囲の土地三七坪二合

(二) 右宅地六二坪二勺のうち別紙第一図面(イ)(ロ)(ハ)(ト)(イ)の各点を直線で結んだ範囲の土地二四坪八合一勺五才

第二目録

(一)、東京都大田区調布鵜ノ木町三〇二番の一三所在家屋番号同町三〇二番の一〇

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟建坪一六坪七合五勺

(二)、同所同番地所在家屋番号同町三〇二番の六

一、木造紙スレート交葺平家建居宅一棟建坪一二坪

(第一図面)<省略>

(第二図面)<省略>

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